暮らしの中の身体感覚

世の中がどんどん便利になって、その恩恵も十分享受しているくせに、
便利になり過ぎて人間の感覚が麻痺していくことを憂い、恐怖に近い思いを抱いている。
そう思うならまず自分が少し不便なものを選択して、
肉体的な感覚を取り戻す生活をすればいいだけなのに、
それもやらずに、便利な方へ、楽な方へと逃げてしまいがち。
受け入れることにも抗うことにも消極的な自分に悶々としながら暮らしていることが、
ここ数年感じている、自分自身の中のアンバランスさの元凶なんだろうな、と感じます。

これ、私だけじゃない気がするんですよね…。

*

たしか二十歳くらいの頃だったと記憶しているのですが、
新聞に載っていた、どこかのメーカー(だったかな?)の広告に、
『便利はうれしい 不便はたのしい』
というコピーがあって、ものすごく印象的で気に入ってしまったんですよね。
30年以上前のことだから、今に比べたらまだぜんぜんかわいい『便利さ』だったろうし、
というかむしろ、その頃の便利はすでにもう今の不便に属しそうな気もしますが、
いまだに、座右の銘と言ってもいいくらい、私の根幹にある言葉になっています。

でも。

便利になっていくことに素直に感謝しつつも、
不便を楽しむ、つまりは、自分の体の感覚を意識できるような生活を送っていきたい。
シンプルな願望だとは思うのですが、
そんな風に暮らすには、ちょっと『便利』が底なし沼になり過ぎてますよね。
今って、便利すぎることが現代人のストレスの元になってる気がするのです。

*

やはりこれももう20年近く前の事なのですが、お施主様とガスコンロを選んでいる時に、
これでもか!というくらい便利機能が満載されているコンロを選ぼうとしてる奥さんに、
「そんなもの使ってたらおバカさんになっちゃいますよ」
と言ってしまった事があるのですが(笑)、その姿勢は今も実は変わっておりません。

いろんな意味で、バランスを保つことがとても難しい時代になってしまったけれど、
『便利はうれしい 不便はたのしい』
この言葉をしかと握りしめて、それを実感してもらえる家づくりをしていきたいものです。
その提案に説得力を持たせるためにも、私自身の暮らしも見直していかねばです。
とりあえず、「めんどくさーい」という口癖を直すところからだな…。笑

月別アーカイブ